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とりとめのない日記

「天保十二年のシェイクスピア」観ました

天保十二年のシェイクスピアがとても面白ったという覚え書き。一度しか見てないので記憶違いや見当違いなこと言ってるかもしれないけれど、めちゃくちゃ楽しんだという事は確かです。


私もシェイクスピア好きの端くれなので、シェイクスピア全作品を盛り込んだ劇!と聞いて興味を持ち、観劇に。

終演後、「観に来てよかった〜〜〜!!!!!!!!!!!」と踊り出しそうなのをすんでのところで堪えながらパンフレットを買って帰りました。


目次

 

天保十二年のシェイクスピア

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公式サイト:日生劇場 絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』


天保十二年のシェイクスピアとは、井上ひさしの傑作戯曲であり、江戸時代の人気講談天保水滸伝を父、シェイクスピアの全作品を母として生まれた物語。らしい。

 


二軒の旅籠屋(はたごや)を取り仕切る老人が、自分の後継を決めるにあたって三人の娘に父に対する愛情を問う……というリア王的な構図から始まる。

おべっかの言えない末娘は家を追い出され、対立する姉二人(お里、お文)のところに'佐渡の三世次'(さどのみよじ)というリチャード三世的な人物が訪れ波乱を起こす。

ハムレットマクベスロミオとジュリエットをはじめシェイクスピア全作のエッセンスを取り入れながら進む劇。

シェイクスピアの作品が大好き、という気持ちを全肯定されるような、シェイクスピアにわかファンながらとても楽しい舞台だった。

 


佐渡の三世次(高橋一生)

 


高橋一生高橋一生さんがすごい。

役者さんに疎いので、「なんとなく知ってるなあ……」くらいの気持ちで見に行ったんだけど、高橋一生の魅力、色気にグッサリと刺された心地です。

 


そもそも私はシェイクスピア作品の'悪役'が好きだ。グロスタ公リチャード*1(「ヘンリー六世第三部」「リチャード三世」)やイアーゴー(「オセロー 」)をはじめ、エドマンド(「リア王」)、アントーニオ(「テンペスト」)、エアロン(「タイタス ・アンドロニカス」)……彼らのむき出しの欲望、それを描写する言葉の強さ、そして内に秘める人間味。私はシェイクスピア劇の悪役に多大なる魅力を感じ、彼らに強く惹かれる。

 


さてそんな中で「天保十二年のシェイクスピア」に登場する佐渡の三世次(演:高橋一生)、彼はグロスタ公リチャードとイアーゴーの遺伝子を色濃く受け継いでいる。見たらわかる好きなやつやん!!

 


三世次はその醜い容貌のせいで、平和な世にも戦の世にも生きづらい。女郎を買おうとしても顔を見られるなり悲鳴を上げられる始末。

「きれいはきたない、きたないはきれい」「愛するは憎む、憎むは愛する」「行くは行かぬ、行かぬは行く」「相対化しておれは初めて行く(生く?)」

マクベス」の魔女を彷彿させる台詞を歌に歌うさまがエロティックで良い。

 


またも「マクベス」の魔女の要素を持つ'清滝の老婆'に「おまえは代官にまで上り詰める」という予言を受け、三世次はお文の勢力に取り入って漁夫の利を得ようと企む。

 


グロスタ公リチャードは醜い容姿の代わりに戦で功績を立てた男だが、三世次にはその力すらない。あるのは巧みな言葉だけ。

「ことばには どくがある」

「女房を愛している亭主にたったひとこと囁く……とたんにすべては変る 亭主は女房の首しめる」

イアーゴーを思わせる歌を歌い、三世次はお文の旅籠屋の仲間入りを果たす。

お文一派が滅亡したのち、三世次はイアーゴーのごとく立ち回ってお里の一派も滅ぼし、自分の兄貴分の男も陥れると、彼は旅籠屋の大将となった。

 


さて清滝の老婆が予言したことには、「おまえは老中になることだって夢ではない、二人で一人の女を愛しさえしなければ。ただし自分で自分を殺さない限り、運命もおまえを押し潰すことはできないだろう」

三世次は二人で一人の女、「間違いの喜劇」の双子の要素を持つお光とおさちに惚れてしまう。

 


自分を受け入れぬお光を殺してしまったあと、三世次は代官を殺しその妻のおさちを口説きにかかる。アン夫人を口説くグロスタ公リチャードのごとくおさちに言いより、おさちは三世次に突き立てた刀を落としてしまう。

三世次は「おれは自分が思うより醜い男ではないのかもしれない」とおどけてみせる。

しかしおさちは三世次に屈したのではなく、「誰よりも醜いおまえの下手人にはなりたくなかった」と言う。

おさちはオランダから取り寄せたという「」を使い、三世次に自身の醜さを見せつける。その鏡に映った自分の姿を見て、三世次は絶望する。舞台の背後にも一面に鏡が張られ、今まで死んでいった者達の亡霊たちも現れる。三世次は堪らず自分の映った鏡を割り、おさちはその鏡の破片で自分の喉を切り自殺する。

間をおかず、代官三世次の悪政に反感を持った百姓たちが館に乗り込んできて、三世次は百姓たちの隊長を斬り殺す。


ところで、三世次は百姓の出である。


「鏡に写ったおれをおれが殺し、百姓を百姓であったおれが殺した」

つまり、三世次は「自分で自分を殺」してしまった。清滝の老婆が予言した破滅が迫る。

館の屋根に追い詰められた三世次は、「馬をくれ。この世から抜け出すには天馬がいる」と言い、屋根から落ち、重い衝撃音が辺りに響いて物語は終わる。

「墓場からのエピローグ」として、三角巾を被り幽霊に扮した登場人物たちが勢揃いしてカーテンコール。最期の場面から衣装を変えて白い着物に身を包んだ三世次が良い。

 


三世次の求めたもの

 


パンフレットの座談会にて、高橋さんは三世次を「一直線に死に向かっている人」「生き切って死ぬために、常に死に場所を求めている人」と語っていた。

 


三世次は顔に火傷があり、桶を足に落としたせいで片足が不自由。平和な世でも戦の中でも生きていけぬと思う原因であるその身体的特徴は、三世次ではなく彼が生み落とされた環境に責任があるものである。その理不尽のせいで彼は社会に溶け込めない。彼は社会に復讐をすることで、深く刻まれた疎外感の慰みにしようとしているのだろうか。

 

 

 

三世次はお光を殺せとお里に命じられた時、それをためらい、なんやかやあって結局お光が生き延びたとき、その運命のいたずらに歓喜した。

旅籠屋を手に入れた三世次は、お光を欲すれば破滅すると予言されていたにも関わらず、お光を手に入れようとする。

権力者たちを口先一つで破滅させたことで自分の醜さを生んだ社会への憎しみを発散させた彼は、愛によって孤独感を埋めようとしたのだろうか。

しかしお光に夜這いを仕掛けそれを拒絶された時、「愛していた分だけ憎しみも大きいぞ」と、彼はお光を殺し、その死体を犯してしまう。


肉欲で三世次の疎外感は埋まったのだろうか? 私は違うと思った。


三世次はおさちを口説き自分の妻にするのだが、三世次はおさちの体には手を出さないのである。ある日おさちに話しかれられて、三世次は「とうとうその気になったか」と嬉しがる。その気になれば力ずくで犯すこともできるだろうに、三世次はおさちが合意するのを待っていた。

自分を拒絶したお光の死体を犯した時、そこに感じたのは満足感ではなく空虚だったのではないか?

三世次はおさちを口説くことに成功した*2とき、「おれは自分が思うより醜い男ではないのかもしれない」と言った。社会の底辺にいたのが今や代官にまで成り上がったことで、三世次には多少なりとも自己肯定感が芽生え、誰かに愛されることを願ったのではないだろうか。

 


元を辿れば辛い環境のせいで怪物になってしまった、そうならざるを得なかった男。心を満たすなにかを欲するさまにはどこか哀れみを誘われる。

 


しかし、そこで三世次には受け入れ難い真実が明かされる。おさちは三世次を愛してはいないのである。

この世でもっとも醜い男だと三世次を罵り、おさちは三世次が初めて目にするであろう鏡を突きつける。

 


三世次は鏡を見て、それに写った自分自身を見た途端に悲鳴を上げる。

そこに見たのは自身の外見の醜さだけではなく、今まで犯してきた罪の数々。他者を自分よりも醜く思わせることで相対的に自分の価値を上げ権力の椅子取りゲームに勝ってきた男は、鏡に写された自身の絶対的な醜さに打ちのめされる。自分が犯した罪は誰よりも自分自身がよく知っていて、良心となって三世次を押し潰す。

 


他者を蹴落としおさちを口説くことで芽生えかけた自己肯定感は塵と消え、巨大な自己嫌悪がふたたび戻ってきたのだろうか。

片足が不自由な彼が「馬をくれ」と言うのは切ない。馬があれば――健常な体があれば、この世でも息ができただろうか。この世から抜け出すための天馬をくれ、という願いとは裏腹に、彼は屋根の上から真っ逆さまに地に堕ちる。

 


イアーゴーやリチャード三世のような悪辣さと哀れさを持つ、とても魅力的な登場人物だった。ありがとうございました。

 

 

 

シェイクスピアファンとして

 


天保十二年のシェイクスピア」の父たる「天保水滸伝」はほとんどまったく知識がなかったのだが、母たるシェイクスピア作品は多少知っているので、そういう意味でもこの作品はとても楽しかった。

 


リア王」「マクベス」「ハムレット」「ロミオとジュリエット」といった有名どころはもちろん、個人的には「間違いの喜劇」が大々的に劇に盛り込まれていたのが楽しかった。

読んだことのない作品もまだまだあるので、「このシーンで出てきたのはシェイクスピアのどの作品だろう?」と知りたくなったし、パンフレットでは各シーンに盛り込まれているシェイクスピア作品のリストが掲載されていたので参考になった。次に読むものの参考に。

 


「To be, or not to be」の歴代の訳を紹介するシーンは遊び心もたっぷりで、声を出して笑ってしまった。

 


パンフレットでは役者さん方が好きなシェイクスピアの作品や登場人物について語っていて、シェイクスピアへの愛を感じるとても幸せな空間だった。

 


あとこの舞台、字幕で歌詞を表示してくれたのが地味にとてもありがたかったな。歌なうえに時代劇で耳慣れない言葉も多いため、歌詞のおかげでストレスフリーで見られた。

 

 

 

秋にはめでたくこの舞台の円盤が発売されるらしい。

春からの新生活を控えいま最大級にお金が無く再度劇場に行くことが難しいので(悔しい……)、せめて円盤は買おうかなと思う。

 


出会えて良かったなと思う作品だった。

 

*1:'リチャード三世'と呼ぶと作品名「リチャード三世」と被って紛らわしいので、この記事では'グロスタ公リチャード'と呼ぶ

*2:口説けたと三世次が勘違いしているに過ぎないのだが

「フランケンシュタイン」履修ログ

はじめに

メアリー・シェリーによる1818年の小説『フランケンシュタイン』に心奪われて以降(2017年秋)、フランケンシュタインと聞けばとりあえず何でも口に入れる生活を送っています。

 

せっかくだし今まで履修してきたものをまとめてみよう! と思い、一覧にしてみました。

 

もしも「フランケンシュタイン」を初めて履修したい、という人にお勧めするとすれば、まずは断トツで原作小説を推します。(色々な翻訳があるけど、私は新潮文庫版がお気に入りです)

小説はハードルが高いので、もっと気軽に履修したい! という場合は、「音声作品」の欄に挙げた青春アドベンチャー版ラジオドラマ(原作への忠実さで言えばこの記事で挙げた翻案の中でトップレベル)、

もしくは「映画」欄の1931年版「フランケンシュタイン」&「フランケンシュタインの花嫁」(「花嫁」の方まで観ると原作のイメージが掴みやすいです)、

あとこれは視聴のハードルが高いのだけど、ナショナル・シアター・ライブ版舞台(円盤化はされておらず、2022年1月現在はNational Theatre  at Homeというサービスで配信されています。英語音声&英語字幕のみ)

このあたりが、原作の雰囲気を感じられるのでおすすめです。

とはいっても、自分の興味のあるものから履修すればそれが一番ですね。

 

エンジョイ! フランケンシュタイン!💫

 

備考
  • 各作品のタイトルについては、邦題がある場合は邦題を、そうでない場合は原題で表記しています。
  • ヴィクター・フランケンシュタインが作った人造人間には名前が無いため、本記事では基本的に「被造物」と表記しています。
  • 私はヘンリー・クラーヴァルが好きなので、その話題が多めかもしれません。
  • 各々多少のネタバレが含まれます。

 

目次

 

 

 

映画

「Frankenstein」(1910・米)

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監督: J・サール・ドーリー

出演: チャールズ・スタントン・オーグル(被造物)

オーガスタス・フィリップス(ヴィクター)

 

備考: 15分ほどの無声映画です。著作権切れなのでネット上で無料で見れます。助かりますね。リンク→Watch the First Film Adaptation of Mary Shelley's Frankenstein (1910): It's Newly Restored by the Library of Congress | Open Culture

 

感想: 好き。15分ほどコンパクトな作品で、「フランケン」の雰囲気を味わえる秀作。この被造物は、きっとヴィクターの半身、彼の心の暗い部分なんですよね……好みですね……。

 

 

フランケンシュタイン」(1931・米)

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監督: ジェイムズ・ホエール

出演: コリン・クライブ(ヴィクター)

ボリス・カーロフ(被造物)

 

備考: 頭にボルトが刺さった知能の低い怪物、いわゆる「フランケンシュタイン(の怪物)」のイメージの大元はおそらくこれ!

 

感想: 好き! 大衆向けのホラー映画としても普通に楽しめるんですけど、原作オタクが見ると、ちゃんと原作の要素を受け継いでるな……!と感じられる、二度美味しい作品です。

被造物は目覚めた時は無垢な存在であったり、子供のような被造物を民衆が殺人鬼と誤解として死に追いやる様には、原作のジュスティーヌの冤罪を思い起こされたり。大好きな作品です、ありがとうジェームズ・ホエール

 

 

フランケンシュタインの花嫁」(1935・米)

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監督: ジェイムズ・ホエール

出演: コリン・クライブ(ヴィクター)

ボリス・カーロフ(被造物)


備考: 前項「フランケンシュタイン」(1931)の続編。

 

感想: そのタイトルのとおり、被造物に花嫁ができる話ですね。前作よりも原作小説に沿ったストーリーとなっています。

私は被造物に幸せになってほしかった読者なので、彼に伴侶ができる翻案などを見るととても幸せな気持ちになります。なので、この映画を初めて見る時は「被造物に伴侶ができるんですか!?」とワクワクしながら見ました。打ちのめされました………………

 

 

フランケンシュタイン」(1994・米)

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監督: ケネス・ブラナー

製作: フランシス・フォード・コッポラ

出演: ケネス・ブラナー(ヴィクター)

ロバート・デ・ニーロ(被造物)

トム・ハルス(クラーヴァル)

 

備考: 原題は「Mary Shelley's Frankenstein」。

 

感想: 個人的問題作。原題に「Mary Shelley's」とあるので、原作に忠実なのかと思って鑑賞したところ、かなり……癖が強くて…………。

というのも、私はヴィクター・フランケンシュタインという男のことを、健常なヘテロラブができない精神性の男だと思っているからなんですね。普通に恋人と愛し合って子供を作れるのなら、死体を継ぎ合わせて人造人間を作るなんていうエクストリーム子作りとかしないんですよ(個人の解釈です)

しかしこの作品はヘテロラブの色がかなり強いです。ので、私的には色々と複雑な作品です。

ケネス・ブラナーの顔がハチャメチャに美しいところとか、ラストシーンの演出とか、好きなところも色々とありますけどね。

 

 

フランケンシュタイン」(2004・米、スロバキア)

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監督: ケヴィン・コナー

出演: アレック・ニューマン(ヴィクター)

ルーク・ゴス(被造物)

ダン・スティーヴンス(クラーヴァル)

 

備考: テレビシリーズを映画として編集したもの。

 

感想: あまり覚えていない(ごめん)ので可もなく不可もなく……な翻案だったんだと思います。どうやら私が見たのはカット版だったようなので、そのうちノーカット版を見たいと思います。

 

フランケンシュタイン アダム・ザ・モンスター」(2015・米)

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監督: バーナード・ローズ

出演 :ゼイヴィア・サミュエル(被造物)

ダニー・ヒューストン(ヴィクター)

 

備考: 舞台は21世紀のアメリカ。

 

感想: 大好き。

舞台は現代に映されているんですが、これはある意味でものすごく原作に忠実だなあと感じています。暴力には暴力を、好意には好意を返す無垢なる被造物の姿が好ましく、痛ましい。

原作オタクの私としてはとてもお気に入りの素晴らしい翻案なんですが、とてもヘビーな仕上がりになっているため、原作を履修してから見るのを強くおすすめします。

 

「ヴィクター・フランケンシュタイン」(2015・米)

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監督: ポール・マクギガン

出演: ジェームズ・マカヴォイ(ヴィクター)

ダニエル・ラドクリフ(イゴール)

アンドリュー・スコット(ターピン警部補)

 

備考: 原作を土台にした別の話です!

 

感想: 好き。

ヴィクターと、オリジナルキャラクターのイゴールのバディものという感じでした。舞台はジュネーヴではなくロンドンで、ストーリーも全然違いますが、ヴィクターと父親の関係性とか、ヴィクターが肝心なところで何も学んでいないところとか、キャラクターの解釈が合うな〜と思ったので、とても好印象な作品です。

 

 

舞台

フランケンシュタイン」(2011・英・ナショナル・シアター・ライブ)

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脚本: ニック・ディア

演出: ダニー・ボイル

出演: ベネディクト・カンバーバッチ(ヴィクター/被造物)

ジョニー・リー・ミラー(被造物/ヴィクター)

 

備考: カンバーバッチとミラーがヴィクターと被造物を交互に演じます。円盤化はされていないが日本の映画館で不定期でアンコール上映がされています。(2022年1月現在は上映権が切れたとの噂を聞いたので、今後あるかは……不明……)

記事冒頭で書いた通り、National Theatre at Homeで配信されています。

 

 

感想: 大好き!

ヴィクターと被造物の、救いようのない2人の世界、という感じです。

ヴィクターは原作から大胆な解釈を与えられているのですが、私はそれが大好きです。

とても人間みのある被造物と、人間が下手なヴィクターが愛おしい。本当に、素晴らしい……何度でも観たいし色んな人におすすめしたい良作です。


フランケンシュタイン」(2016・英・英国ロイヤルバレエ)

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振付: リアム・スカーレット

出演: フェデリコ・ボネッリ(ヴィクター)

ティーヴン・マックレー(被造物)

 

備考: NHK BSプレミアムで放送してくれました。ありがたい。

 

感想: バレエ! バレエのことは全然分からないんですけど、とても良かったです……


「Frankenstein」(2019・ベルギー・モネ劇場)

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音楽: Mark Grey

監督: Àlex Ollé 

 

備考: オペラ。使用言語は英語。2020年4月、期間限定でYouTubeで無料公開されていました。

 

感想: 大好き……! オペラってまともに見るのはこの作品が初めてだったんですが、すっごく楽しかったです。

現代より200年程未来の世界が舞台。氷の中から被造物が発見されます。ウォルトン博士率いる科学者チームは被造物の蘇生に成功し、被造物は生涯を語り始める……という、SFチックな壮大なセットと共に展開される劇。

被造物はスキンヘッドなのですが、彼だけでなく登場人物全員がスキンヘッドのため、段々みんなが「怪物」に見えてきてゾゾゾとします。そして、寂しさを強く感じるラスト。

良き翻案でした。

 

フランケンシュタイン」(2019・日・富山のはるか)

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演出: 松尾裕樹

脚本: 戸塚ヤスタカ

 

感想: 「構成演劇」というジャンルらしく、原作のストーリーをなぞるというよりも、「フランケンシュタイン」の要素を抽出して再構成した、という感じの斬新な作品です。抽象的な短いシーンをオムニバス形式で構成していました。

 

フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」(2019・日・劇団TremendousCircus)

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演出・脚本: 田中円

 

備考: DVD化されています。ありがたい。

 

感想: 好き。

ゴスロリで送るフランケンシュタイン。ヴィクターやクラーヴァルのビジュアルが良い。

ストーリーはしっかり原作に沿いつつ、この翻案で打ち出したいテーマをしっかりと狙い撃ちしていて気持ちがいい作品でした。

そのために斬新な解釈や脚色を加えていて、とても面白かったです。

 

フランケンシュタイン」(2020・日・ワン・ヨンボム プロダクション)

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音楽: イ・ソンジュン

脚本・歌詞: ワン・ヨンボム

潤色・演出: 板垣恭一

訳詞: 森雪之丞

出演: 中川晃教柿澤勇人(ビクター)(Wキャスト)

加藤和樹小西遼生(アンリ・デュプレ/怪物)(Wキャスト)

 

備考:原作を土台にした別の話だ!(再)

 

感想: ヴィクターの親友枠(ヘンリー(アンリ)・クラーヴァルならぬアンリ・デュプレなる人物 )が被造物になるという斬新な話。

劇中ではこの世の地獄をまざまざと見せ付けられるし、人の命を弄ぶ禁忌は無慈悲に罰せられますが、地獄のような世界を当然として受け入れず現状を変えたいと強く願う「現代のプロメテウス」たちの懸命な思い、それ自体は間違ってはいなかったのだという救いのようなものも感じるようなお話でした。

 

フランケンシュタイン -cry for the moon-」(2022・日)

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演出:錦織一清

脚本:岡本貴也

出演:七海ひろき(被造物)

岐洲 匠(ヴィクター)

彩凪 翔(アガサ)

 

備考:Blu-ray化されています。助かりますね。

 

感想:本当にありがとうございます………………………………

概ね原作通りのストーリーですが、一部脚色が加えられています。

被造物が最初に仲良くなるのは、盲目の娘・アガサ。

厳しいけれどもとても優しいお話で、この「フランケンシュタイン」に出会うことができてよかった……と思いました。

 

「Voice Box 2022 FRANKENSTEIN 朗読『フランケンシュタイン』」(2022・日)

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脚本・演出:斎藤栄

出演:小野大輔 / 羽多野渉 / 佐藤拓也 / 三宅健太 / 平川大輔

 

感想:非常に秀逸な翻案です。

「創造主と被造物」、作りし者と作られし者の関係性にスポットを当てた作品。しっかり現代の我々を刺してきます。

ほかの翻案と比べ、クラーヴァルがとても大きな役割を与えられていて新鮮でした。円盤化希望。

 

 

 

その他・映像作品など

フランケンシュタイン」(1977・日・「まんが世界昔ばなし」内)

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脚本: 首藤剛志
演出: 又野龍也

 

備考: 2020年2月現在、アマゾンプライムビデオで配信中です。

 

あらすじ: 老齢のフランケンシュタイン博士は怪物を作り出すが、目覚めたての怪物はうっかり博士を殺してしまう。外界に出た怪物は人間に目撃されて恐れられる。怪物は人間に怖がられるとなんだかとても悲しくなって、その人を殺さずにはいられなかった。しかしある日出会った少女は怪物を怖がらず、仲良くなった二人は古城で遊ぶ。しかし怪物が少女のために花を取りに出かけている間、殺人を犯した怪物を恐れた群衆が古城に火をつけてしまう。少女の命が危ない! 怪物は少女を助けに燃え盛る城へ飛び込む。無事助けられた少女は怪物に「ありがとう」と言う。怪物は力尽き、息を引き取るのだった……

 

感想: 『フランケンシュタイン』を元にした別の話だ!!!!!!が、好きです。

斬新なストーリーでビックリしてしまったんですけど、被造物が人を傷つけるのは人に敵意を向けられたから、そして無知ゆえに殺してしまうということ、好意を向けられれば好意で返すということ、群衆の誤った正義が無垢の人を傷つけること、等々はちゃんと原作のエッセンスを感じて好印象でした。

被造物と少女の触れ合いは、1931年版映画の影響なのかな……それとは違って被造物は最後まで少女を傷つけることがなかったのでよかったです。よかった……

 

 

ユニバーサル・モンスター・ライブ・ロックンロール・ショー」(2001〜・日・ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)

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備考: 画像中央の緑色の肌の彼が被造物(フランク)。その右隣の黒髪の彼女が花嫁(ブライド)。

USJで公演中!

 

感想: ありがと〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!

ユニバーサル映画に出てくるモンスターたちが送るロックンロールショーです。ユニバーサル版(1931年版)の被造物とその花嫁が出演するんですが、カップル枠というか……夫婦枠というか……めちゃくちゃハッピーイチャラブカップルなんです。上述の「フランケンシュタインの花嫁」で傷ついた心が癒されました。現パロ幸せイフ。最高の心の癒しです。

 

フランケンシュタインの告白」(2015・日・「相棒」シーズン14第1話)

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脚本: 輿水泰弘
監督: 和泉聖治

出演: 水谷豊

反町隆史

 

感想: オマージュとして最高のものを見ました。劇中には「フランケンシュタイン」という単語は一切出てこないんですけど、分かる人には分かる要素が伝わってきて最高でしたね。

 私は「相棒」は詳しくないんですけど、とても面白かったです。一見の価値あり。

 

 

「あっちいってフランケンコーン!」(2018・米・「あっちいって ユニコーン!」内)

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脚本: Jason Groh

監督: Ken Cuperus

 

備考: 子供向けカートゥーンディズニーチャンネルで放送。

 

感想: 好印象。おバカなユニコーンの友達として「フランケンコーン」を作っちゃおう! という、子供たちの生命倫理が心配になる導入。逃げ出したフランケンコーンを追うと、町が大荒れで、フランケンコーンの仕業か!? と思いきや、町が荒れたのは前述のユニコーンの仕業だったそう。

ピュアな「フランケン」と冤罪という要素が好印象でした。かわいかった。

 

「まほうの ゆびわ」(2019・米・「バンピリーナとバンパイアかぞく」内)

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監督: Mårten Jönmark and Ehud Landsberg

脚本: Travis Braun

 

備考: 子供向けカートゥーンディズニーチャンネルで放送してました。

 

感想: ありがと〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!

主人公であるバンパイアの少女が、被造物とその花嫁の結婚式を手伝う話。そう、結婚式。

被造物とその伴侶がこの上なく幸せに結ばれる回です。最高に癒しでした。こういう幸せ二次創作が無限に見たいです。

 

音声作品

「Frankenstein」(2003・米・Penguin Classics)

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朗読: Richard Pasco

 

備考: 「フランケンシュタイン」原書の朗読。多少のカットはあり。

 

感想: 良い声で原作を朗読してくれます……好きです。

 

フランケンシュタイン」(2011・日・NHK青春アドベンチャー」内)

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訳: 小林章夫

脚色: 坂本正彦

出演: 今井朋彦(ヴィクター)

井上倫宏(被造物)

亀田佳明(クラーヴァル)

 

備考: NHKによるラジオドラマ。15分番組全10回。CD化はされておらずたまに再放送をしています。

 

感想: 大好き!!!!!!!!!

原作に忠実で……ドラマCD仕立ての朗読という感じです。醜さだけを理由に人から傷つけられる被造物の悲痛な訴えに胸を痛め、ヴィクターとクラーヴァルの凝縮された仲良しさにハッピーになります。素晴らしい。最高。

 

漫画

フランケンシュタイン」(1994・日)

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作: 伊藤潤二

 

備考: ホラー漫画家伊藤潤二先生による「フランケンシュタイン」の漫画化。

 

感想: 大好き……!!!

鮮やかに描き出される「フランケンシュタイン」の物語、物悲しい結末。後半はストーリーの改変が目立ちますが、概ね原作通りに進みます。よい……よいぞ……大好きです…………

 

ゲーム

「放浪者 フランケンシュタインの創りしモノ」(2019・仏)

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開発:La Belle Games、ARTE France

媒体:Steam、Nintendo Switchなど

 

感想:良作……………………

被造物視点で物語を進めるテキストベースのゲームです。

とにかく絵が綺麗。美しい背景画の中に、ぽつんと佇む被造物をプレイヤーは操作していきます。

なんとこちらはマルチエンディングなので、自分の好きなように被造物を行動させることができるんですね。まあ、「行き先はあなたが決めてください(ハッピーエンドがあるとは言ってない)」なんですけど……………………

あと、日本語版テーマソングの「放浪歌」がとても好きです。

 

 

 

 

履修次第、随時追加してます。

ゴスロリ「フランケン」もアリだな

劇団トレメンドスサーカスさんによる舞台「フランケンシュタイン」を観てきた。

『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』2019年11月6日(水)~11月12日(火) | 劇団TremendousCircus公式HP

 

感想がツイッターに書くには長くなりそうだったので、ここにまとめます。感想というか観劇メモ。自分用という色が強いのでファンレターではないです。

 

ざっくりとした印象としては、筋書きは原作にかなり忠実! でもアレンジの癖が強い! まさに「翻案」を見ている感じで、面白かった。

以下、劇(原作および脚色部分)のネタバレを含むので未観劇の方はご注意ください。

 

やっぱり、エリザベスをそう描くかあ〜!という驚きが強かった。原作のエリザベスってかなり家父長制の社会に従順な、保守的な女性なんですけど、そんな彼女に怒りを芽生えさせて社会へ立ち向かわせたのは面白いね。原作においてクリーチャーは社会的弱者、つまり女性のメタファーなのでは?という説もあるけど、トレメンドスさんはクリーチャーとエリザベスを重ねてくるのね!

エンディング後の原作改変部分。死なせてやれよ! と思ったけど、ヴィクターの被造物/ヴィクターの半身としてのクリーチャーの物語はあそこで終わりを迎えたが、社会的弱者の象徴としての役はまだ終わってはいないと。死してなお消えないエリザベスの怒りが、自殺を決意したクリーチャーを再び蘇らせる。みたいな感じか……? このあたりはうまく飲み込めてないけど、エリザベスの解釈が面白かったのでよい。原作では知らぬ間にフェードアウトしていったアーネストもちゃんと拾ってあげてましたね。

 

……筋道立てて感想書くのって難しいですね! 一番印象的だったのは上に書いたので、あとは思いついたままに書くとします。

 

・私は原作ファンかつクラーヴァル大好き芸人なので、クラーヴァルの出てくる翻案! ということを楽しみにしてました。クラーヴァル、良かった! 騎士道物語や自然の美しさに心を踊らせる元気な姿がかわいかった。いやすごいかわいかったな。女性が演じてらしたので、ヘンリー・クラーヴァルの柔らかな人柄がよく出ていてよかったですね。あとヴィクターと並んだ時の身長差にときめき。ヴィクターとのヨーロッパ二人旅中、スコットランドで別れる時の「hasten, then, my dear friend, to return, that I may again feel myself somewhat at home, which I cannot do in your absence.」って私の好きな台詞の一つなんですけど、この舞台では「君は僕の家みたいなものなんだから」みたいに訳してて、おうち……!! と心がワクワクしました。いいよねえこの親友。

 

・小さな劇場でだいたい地声(マイクを使わない)だからなのか、役者の皆さんが基本大げさな演技だった。嫌いじゃない。アルフォンスとカロリーヌの掛け合いがコミカルになってて面白かった。

 

・エリザベスの拾われた経緯、クレンペ教授、ジュスティーヌの過去、等々「外見の美醜」に関する描写が強調されてましたね。

 

・ヴィクターは眼鏡+白衣の衣装が一番好きだった! 眼鏡が良い、眼鏡が。眼鏡をかけろ!

 

・ヴィクターのセクシュアリティに関しては疑問が残った。ジュスティーヌに初恋をして性的関係を持ったかと思えば、エリザベスを最愛と言うし、でもエリザベスにはゲイじゃないかと疑われるし。私は原作のヴィクターを無性愛もしくは性嫌悪だと考えているけれど、トレメンドスさんはどう描こうとしたんだろうか。まあヴィクターは信頼できない語り手なので、そのあたりはアンビギュイティを残しておいてもいいんだろうけど!

 

・ヴィクターかわいかったな〜。ヴィクターとクラーヴァルの二人旅のシーンがよかった。仲良しか!(そうだよ)

 

・劇はメアリー・シェリーご本人の語りから始まったけど、原作のあの「前書き」を引用しつつ、そこには書かれてはいない「女性が物を書くことへの社会の反応」「女性の立場の弱さ」をダイレクトに表明するので、なるほどこの舞台はそういう方向でいくのね……と分かりやすかった。メアリー役のお姉さんがとてもかっこよかった! 兼役で舞台に出てくるたびに目で追ってしまった。

 

・クリーチャーの表現方法が面白かった。巨大な仮面を使ったり、目・耳・鼻・口のパネルを使ったりして、複数の役者がクリーチャーを表現していた。一目見て誰もが嫌悪するほどの醜さってなかなか視覚的に表現が難しいので、このように抽象的に表現するのは良いな〜と思いました。抽象的な分、感情移入がしづらい節はあったけど。

 

・翻案でなかなか登場しないウォルトンもちゃんと出てきた。ウォルトンがとってもかわいかった! 姉さーん見てるー!?

 

・前説、鑑賞中の注意事項を述べる時に「ヴィクターは清潔な実験動物を求めるので飲食はやめてね」みたいにいちいち理由をつけてるのがかわいかった。ヴィクターは「博士」じゃないですと言ってたのが好感度が高かった。ヴィクター・フランケンシュタインに博士号はありません。ヴィクターの公開実験!みたいな感じでご案内していたんだけど、「現代のプロメテウス」を自称するのはちょっと笑ってしまった。それ磔にされるけど大丈夫なんですか。

 

 

こんな感じだろうか。手放しで「良い!」と褒めてはないけど、総評すると良い舞台だと思った。「フランケンシュタイン」の翻案の中では好きな部類。筋書きはかなり原作寄りなので、「どこを強調するのか」に集中できて楽しかった。ビジュアルに関して言えばめちゃくちゃ好き!!!(この作品において外見の良さを大きな加点にするのはいかがなものか?とも思うけどだって良いものは仕方ないもんね)

観劇前に「内容が良かったらグッズも買おう」と思ってたんだけど、ブロマイドを買わせていただいた。

ありがとうございました。

 

ビジュアルが良かった記念。(ヴィクターとクラーヴァルです)

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NTLフランケンシュタイン再鑑賞

シネリーブル池袋さんでアンコール上映をやってらしたので、ナショナル・シアター・ライブの舞台「フランケンシュタイン」を見てきた。

去年の感想はこっち→200年越しに愛を - ぴかぴかマグパイ

円盤にならないタイプの舞台のようなので、劇場でしか観られる機会が無い。再上映してくれるのは有難い! というわけで久しぶりに見た感想をぽちぽち書きます。がっつりネタバレがあるのでお気をつけください。

 

 

この感想は「ヴィクターの圧倒的孤独感」、「創造主と被造物」の二本立てでお送りします。

※この記事ではヴィクター・フランケンシュタインが造り上げた人造人間のことを「クリーチャー(the creature/創造物)」と呼びます。生まれた時は無垢だったあの子を「怪物」と呼ぶのが憚られる。

 

 

NTLのヴィクターって、原作の彼と比べるとめちゃくちゃ孤独なんですよね。

原作では幼馴染で親友のヘンリー・クラーヴァルと友情を育んだり、(少なくとも)表面上は家族と親しく付き合っていた。それに対してNTLのヴィクターには最愛の友クラーヴァルも、北極の地で理解者になろうとしてくれたウォルトンも居ない。そもそも彼自身、(これはNTL版ヴィクター固有の特徴なんだけど、)嫌悪しか理解できず、他者からの愛情を拒絶している。愛情を理解できないからクラーヴァルが居ないのか、クラーヴァルが居なかったから愛情を理解できなかったのかは分からないけど、父やエリザベスと表面上すらうまく付き合えない孤独なヴィクターの姿が、とても哀れに思えました。

そしてその分、クリーチャーとの関係性が強烈に映りますね……!!

 

NTLはキャスティングの時点でそれが伺えるんだけど、ヴィクターとクリーチャーの関係性に焦点が当てられている。クリーチャーはヴィクターの分身なんですよね。「私達は一つだ」と言う最後のシーンは言わずもがなエモエモの極みなんだけど、「人間と怪物」だった2人の立場がだんだん反転していくのが好きだと思いました。

クリーチャーの伴侶を創るシーン。この時、クリーチャーは愛が何かを理解し、自分の理解者である伴侶を切実に求めている。一方ヴィクターはというと、愛が何か知らず、クリーチャーの伴侶を残酷に破壊する。ここはクリーチャーのがよっぽど人間らしく、ヴィクターのが「怪物」に見えるシーンですね。愛情を理解できず圧倒的孤独であるヴィクターは、自分の半身たるクリーチャーが他者からの愛情を享受するのを許さない。クリーチャーの伴侶を殺し、彼を自分と同じ孤独の境地に追い込んでいる。

(余談。ヴィクターには、クリーチャーが自分の半身であるとか、自分と同じ孤独に追い込んでやろうとかいう自覚は無いと思っています。というのも、私は原作のヴィクター・フランケンシュタインという男は自分が何を思っているのか・何を恐れているのかを自覚できない男であり、常に無意識下の欲望・恐怖に突き動かされている男だと解釈しているので、NTLのヴィクターの事も基本そんな感じのスタンスで考えています)

ヴィクターとエリザベスの婚礼の夜。エリザベスはクリーチャーに理解を示してくれたのに、ヴィクターに噓をつかれ伴侶を殺されたクリーチャーは、同じように噓をついてヴィクターの妻を殺さなければならない。狂ってやがるぜ。愛情を理解できないヴィクターは当然、妻と果たさねばならない性的責務にも気が乗らないと思うのですが、クリーチャーの伴侶を殺したおかげでクリーチャーが自分の妻を殺した。これで結婚・家庭とかいう理解できない愛情の鎖から解放された。圧倒的孤独の完成だよ。やったね。お互いを孤独に引きずり落とし合う2人がヤバイ。

 

北極のシーンで、死んだかと思われたヴィクターに「置いていかないでくれ」と涙を流すクリーチャー。物語の冒頭ではヴィクターがクリーチャーに命を与えるんだけど、終盤のシーンではクリーチャーがヴィクターを蘇らせる。この立場の反転が、良いね。このシーンでクリーチャーがヴィクターに肉とワインを与えているのも良いわ。クリーチャーの涙にヴィクターは息を吹き返し、それを見たクリーチャーは「僕を愛してくれたのですね」と感激する。けれど2人は手を取り合う事はなく、永遠に復讐の追いかけっこを続ける事にする。愛ではなく嫌悪で結ばれる2人……2人の憎しみの絆は、愛よりも強く2人を結びつけているんですよね。この強烈な、救いようのない、どうしようもなく凄まじい絆で結ばれた創造主と被造物の関係性が素晴らしい。

とても良い舞台化だなあと思いました。

うん……とても良い……すごく良い舞台化を作ってもらえて、幸せだなあ……

 

そう思って、非常に心が満たされました。こんなに素敵な「フランケンシュタイン」翻案を享受できる私は幸せ者です。

 

そんな最高最高の『フランケンシュタイン』翻案である「ナショナル・シアター・ライブ:フランケンシュタイン」は、シネ・リーブル池袋で上映中!→ナショナル・シアター・ライヴ アンコール夏祭り2019 | シネ・リーブル池袋

 

フランケンシュタインの翻案たち

先日、友人と2015年の映画「フランケンシュタイン  アダム・ザ・モンスター」の鑑賞会をした。この映画は個人的には「フランケンシュタイン」(1818年のメアリー・シェリーによる小説)の翻案としてかなり秀逸な作品なので、原作小説を読んだことのある友人と共有できて嬉しかった!

 

私が「フランケンシュタイン」の原作を初めて読んだのは約2年前の事になるのだけど、今日に至るまでいろいろな翻案を見てきたなあ……と改めて思ったので、自分が今までに履修した翻案を下に書き出してみた。

 

映画

・1910年、J・サール・ドーリー監督、10分強の無声映画

・1931年、ジェイムズ・ホエール監督、世間一般でいうところの怪物「フランケンシュタイン」のイメージはこれ。

・1994年、ケネス・ブラナー監督、デ・ニーロが出演してるのはこれ。

・2004年、ケビン・コナー監督(カット版)

・2015年、バーナード・ローズ監督、邦題は「フランケンシュタイン アダム・ザ・モンスター」

・2015年、ポール・マクギガン監督、原題は「Victor Frankenstein」、ジェームズ・マカヴォイダニエル・ラドクリフ主演はこれ。

 

舞台

・2011年、ダニー・ボイル監督、ナショナル・シアター・ライブ、カンバーバッチとジョニー・リー・ミラーがW主演。

・2016年、英国ロイヤルバレエ団。バレエ。

・2019年、富山のはるか

 

その他

・1994年、伊藤潤二による漫画

・2011年、NHK青春アドベンチャー」によるラジオドラマ

 

たぶんこれで全部かな……? マクギガン監督の映画はかなり原作とは違うけど。翻案ではなくオマージュものだと、ドラマ・相棒「フランケンシュタインの告白」も最高だった……という話は置いといて。

 

私が「フランケンシュタイン」の翻案を評価するとき、三つの軸がある。

まず「原作に忠実か」、そして「原作を読んだことのない人に入門編としてお勧めできるか」、あとは細かい事は置いといて「好きか」どうか。

たとえばケネス・ブラナーの映画は「原作に忠実か」の観点で言うと「お前……お前ちゃんと原作読んだのか!!!?!?!?」って問い詰めたくなる程度には信頼できない(※個人の感想です)し初心者にもお勧めしないけど、ヴィクター・フランケンシュタイン(ケネス・ブラナー)のビジュアルがバチボコに良かったので「好き」ではある。みたいな。

 

個人的に選ぶ「フランケンシュタイン」翻案トップ3は、

・2015年の映画「フランケンシュタイン アダム・ザ・モンスター」

・2011年ナショナルシアターライブの舞台

NHK青春アドベンチャー」のラジオドラマ

の三つ。

 

さっき言った三つの観点から、トップ3のそれぞれを少し語る。

 

「アダム・ザ・モンスター」

「原作に忠実か」→めちゃくちゃにYES。この映画は物語の舞台を18世紀のヨーロッパから現代のアメリカに移していて、そのほか設定の変更は色々とあるんだけど、原作のテーマを受け継いで強烈に描いている。生まれた時は無垢だったクリーチャーが、怪物として扱われ続けたことで最終的に怪物となってしまう様が……すごい。

「原作未読の人にお勧めできるか」→これはNO。というのも、原作ファンとしてはこの映画は大いに楽しむことができたんだけど、なにぶん物語はかなりヘビーな仕上がりになっているので、未読の人にはキツいと思う……実際、原作履修済みの人は「原作に忠実」と高い評価を聞いたりするんだけど、明らかに原作未読だろうな〜って人は引いてたりする。ので、原作読んだ人には是非お勧めしたい。した。(記事冒頭参照)

「好きか」→大好き!!!!!!

 

ナショナル・シアター・ライブ

「原作に忠実か」→YES。これも設定の改変はかなりある。主人公ヴィクターの親友ヘンリー・クラーヴァルが登場しなかったり、ほとんど全編がクリーチャー視点で描かれていたり、ヴィクターの性格が多少変更……というか、思い切った解釈がされていたり。しかしそれらはクリーチャーの無垢さと、そこから「怪物」になってしまった悲劇性、ヴィクターの拗らせ様、クリーチャーとヴィクターの関係性……などなど、原作のテーマを鮮烈に、強烈に描き出すための演出なので、ただただ驚嘆。すごい。

「原作未読の人にお勧めできるか」→YES。前述の通り原作と違う点がぽつぽつあるので注意は必要なんだけど、大体の流れは原作と同じなのでいわゆる「忙しい人向け」として適していると思う。安心してお勧めできる。鑑賞できる機会が限られているのが難点だけどな!! 2019年8月に池袋の映画館で上映するのでこの機会を逃さず行きましょう。私は行く。

「好きか」→大好きに決まってるんですよね!!!!!!!!!! 私はヴィクターとクリーチャーをキャラクター・ダブル(分身/ドッペルゲンガーみたいなもの)として見ているので、とあるシーンがめちゃくちゃ解釈が合って良かった。好き。Amazonでこの劇の台本(原語版)を買う程度には好き。円盤が出ないのが悲しい……

 

青春アドベンチャー」ラジオドラマ

「原作に忠実か」→YES YES YES YES! ドラマ仕立ての朗読劇、という感じの作品。小説「フランケンシュタイン」の邦訳本はもちろん色々あるんだけど、どの邦訳を使用しているかがクレジットされる程度には、原作通りに物語が運ばれる。時代背景や設定の大きな変更は無く、ハリウッド映画みたいに無理やりヘテロ要素が強調されねじ込まれたりもしてないので、安心して聞けます。

「原作未読の人にお勧めできるか」→YES!!! 上述のように朗読劇に近いので、敷居の低いものとしてお勧めできる。した。(他の友人に)

「好きか」→あらゆる「フランケンシュタイン」翻案の中で一番好き!!!!!!!!!!!!!!(私情)!!!!!!!!! というのもこのラジオドラマというのは、私が翻案トップ3に挙げた作品の中で唯一、主人公の親友ヘンリー・クラーヴァルが登場する作品なんですよね。私は、原作「フランケンシュタイン」においてクラーヴァルが一番好き。いわゆる「推し」。しかし「フランケンシュタイン」の翻案、特にハリウッド映画なんかを観ていると、ヘテロカップルを作んなきゃなんない不文律でもあるのか知らないけど、ヴィクターとエリザベスのヘテロラブが強調されて描かれる事が多い。そのため、エリザベスの存在に重きが置かれてクラーヴァルの存在は軽視されがち。そういう背景もあって、原作通りクラーヴァルの存在感が大きく描かれているこのラジオドラマは非常に好感度が高い。

それと、私はヴィクターがなんの問題もなくヘテロラブに興じている翻案があまり好きではない、という理由もある。ヴィクターは性的行為/女性性を拒絶し続けたあまり、女性の存在無しに一人で生命を生み出したり、制作途中の女版クリーチャーを壊したり、エリザベスを死に追いやったりしてしまった拗らせ青年だというのが私の原作解釈なので……なので、ラブが変に強調されていないこのラジオドラマは、とても解釈が合う。好き!!

 

 

以上。トップ3以外の翻案についてもそれぞれ語ろうと思えば語れるんだけど、長くなりそうなのでそこまでの気力が無く……今日はここでおしまい。

 

フランケンシュタイン」と聞けばとりあえず軽率に飛びついているので、今後も素晴らしい翻案に出会えるよう……祈る!

愛とヤケクソとヤケクソの愛

※この記事には映画「パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊」の重大なネタバレが含まれますので、アレだったらアレしてください。一応。

 

もう夏です!!

私が毎年楽しみにしている、東京ディズニーシー夏のスペシャルイベント・パイレーツサマーの詳細情報が公開されました。テンション上がりました。待ちきれません。なので、私にとってはもう今から夏です。

GWは「パイレーツサマーにとっておくぞ〜^o^」と称してお金を使うのは控えました。非常に、楽しみです。

 

ところで「パイレーツ」シリーズでの私の推しはバルボッサです。お察しください。

 

 

パイレーツサマーは毎年楽しみにしていて、これに関してはもうお財布がガバガバになっちゃうんですね。でもなんか、多少冷静になってみると、これって純粋な愛の他にヤケクソの気持ちもあるんじゃないかって思えてくるんですね。

というのも、私のパイレーツ歴はまあまあ長くて、記憶が曖昧なところもあるんですけど、2006年公開の2は映画館で観た覚えがあるので少なくともかれこれ13年の付き合いになるんですね。で、いつバルボッサ推しになったかというと、これも記憶が曖昧なのだけど、2011年の4公開時には推しの気持ちがあった事を覚えているので、バルボッサは最低でも8年は推しの座に君臨しているんです。

といっても、2公開時は私はまだまだ子供だったし、8年ずっと全ジャンルでバルボッサが最推しだった訳でもない、わりとフワフワにわかにわかに推してるジャンルです。しかしそれでも、パイレーツという作品とバルボッサという人物は10年以上、私の心の中に当たり前に存在していました。

そんな中で、問題の5作目。お前だよお前。最後の海賊。

公開前は6年ぶりの最新作ということで、そりゃあ楽しみでした。どのくらい楽しみだったかというと、公開日までにシリーズ全作を復習ヘビロテしたのはもちろんのこと、いてもたってもいられずインターネットでファンアートを漁り、自分でもファンアートを描き、英語のファンフィクを読んでは気合いで英語のコメントを送ったりしていました。そんな風にしっかり再熱させて、バルボッサが大好きだ、大好きだという気持ちをしっかり高まらせて、公開初日に映画館に駆け込みました。

なんということでしょう。

例えるなら、テンションが上がりに上がって50メートル飛び込み台に登ったはいいものの、いざ飛び込んだらプールの水が全部抜かれてた、みたいな。高飛び込みとかしないで、大人しくプールサイドから入水するだけならまだ傷も浅かったかもしれないのに。

 

まあそんな感じで最高の状態で推しがお亡くなりになるのを目の当たりにしたわけなんですが。

 

そこからなんですよね、パイレーツ関連のグッズに関して財布が緩み始めたのは。

もうなんか、面白いくらいに彼の死から立ち直れてないんです。日本公開からあと2ヶ月ほどで2年になるんですけど、未だにふと思い出してはとても悲しい気持ちになる。5自体は好きなんだけど、それだけに終盤のアレが、受け止めきれなくて仕方がない。

5の劇場グッズを買い漁ってる時は、「推しのグッズが出るのはこれが最後かもしれないから……」という気持ちが確かにありました。そして程なくして始まった初年度パイレーツサマーのグッズも色々と手を出し、パークに来園した時はスペシャルメニューをガンガン頼み、次年度パイレーツサマーでもそれが続きました。

私はバルボッサの事が好きです。残忍だけど哀しい、二面性を持つ魅力的な海賊である1が好き。最後に出てきて全てを持っていく2が好き。味方になると最高に頼もしい3が好き、屈辱を受けようとも生き残って執念の復讐を果たす4が好き、どこまでも海賊な5が好き。ジャックスパロウの魅力が不変性であるならば、バルボッサの魅力は変化する事だと思っている。変動する時代に適応し、生き残る。船を変え装いを変え、時に英国海軍に下ろうとも、海賊であることを貫く(狡)賢い男。

大好き、大好きなんだけど、私が今パイレーツサマーを楽しみに楽しみにしているのは、この大好きの気持ちの他に、彼が亡くなってしまってヤケクソになってる気持ちもあるんだろうなあと思って、ちょっと落ち込みました。

なんだかなあ。

 

推しの死から約2年経っても全然心理的な進歩ができていないので、この拗れてしまった気持ちとは気長に付き合っていきたいと思います。も〜これすぐに治すのは無理だわ。

そういうわけで、ヤケクソの愛で今年の夏も突っ走る。

 

 

ともかく、パイレーツサマーは今年もめいっぱい楽しみます!

なんたって、バルボッサという概念を三次元で味わうことのできる数少ない機会。パーク全体海賊モードなお祭り感も大好き。ハーバーショーも、推しに直々に海賊修行をつけてもらえるなんてどんな夢小説だよって感じですし(?)、運が良ければ推しに直々に水をかけてもらえるかもしれない。シャブじゃん。こんなん。去年は船長直々にジョッキで水をかけてもらい無事死にました。本当にありがとう。私の船長はバルボッサだよ。

今年のスペシャルメニューやグッズの詳細は5月中旬ごろ発表だそうなので、ワクワクしながら待ちます。

今年も行くぞ行くぞ行くぞ〜〜!

 

ヨーホー!!

 

推しを推して学位を取る

四月! 新学期です!

昨年度で授業で取るべき単位はもう取り切ってしまったので、今期は卒論準備をしつつ気になる授業をふらふら聴講するつもりでいる。

学校では英米文学をやってるので、社会に出て仕事とかに直接活かせる事を学んでいる訳ではないと思う。(英語は活かせるかな……話すのじゃなく読み書きばっかりやってるけど)

でも英米文学ってめちゃくちゃ興味がある事なので、今現在勉強はとても楽しい! 卒論も推し作品を題材にやる事になっている。当初は指導教員の先生に「このキャラクター(私の推し)はマイナーだしこれで卒論書くのはちょっと無理だと思うよ」と言われてたんだけど、昨年度一個論文を書きながら模索していったら、深掘りの余地が見つかったようでいつのまにか推しキャラで卒論を書くゴーサインが出ていた。わーい! 論文書くのはもちろんハチャメチャに難しいけど、題材が自分の好きなものなのでその辛さも緩和されるというもの。がんばるぞ〜

 

今学んでいることは仕事には役立たないかもしれないけど、オタク趣味に役立つことは確かですね。文学については大学に入って初めて小説の読み方を知ったようなドのつくにわかだけど、小説読んでてこういうメタファーがあるのか……と知るたびに自分の二次創作でやりたくてたまらなくなる。作品を読み取る上でも、キャラクター・ダブルをはじめとして色々使えるものを得られている。フォークナーの「八月の光」は本当に衝撃的だったなあ……

あと、英語! リスニング力はボロクソだけど英語の文章に触れる機会はとても多いので、そのおかげで英語のファンフィクを読むことに抵抗がない。海外ファンとも交流ができる! 日本だと私しか描き手のいない推しカプでも英語圏に手を伸ばせば推しカプファンフィクが読める!!、、!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!、!!!!!

 

取り乱しました。

 

社会人になっても同人活動を続ける気満々でいるので、より良いオタ活の為にインプットも色々していきたい〜