ぴかぴかマグパイ

とりとめのない日記

NTLフランケンシュタイン再鑑賞

シネリーブル池袋さんでアンコール上映をやってらしたので、ナショナル・シアター・ライブの舞台「フランケンシュタイン」を見てきた。

去年の感想はこっち→200年越しに愛を - ぴかぴかマグパイ

円盤にならないタイプの舞台のようなので、劇場でしか観られる機会が無い。再上映してくれるのは有難い! というわけで久しぶりに見た感想をぽちぽち書きます。がっつりネタバレがあるのでお気をつけください。

 

 

この感想は「ヴィクターの圧倒的孤独感」、「創造主と被造物」の二本立てでお送りします。

※この記事ではヴィクター・フランケンシュタインが造り上げた人造人間のことを「クリーチャー(the creature/創造物)」と呼びます。生まれた時は無垢だったあの子を「怪物」と呼ぶのが憚られる。

 

 

NTLのヴィクターって、原作の彼と比べるとめちゃくちゃ孤独なんですよね。

原作では幼馴染で親友のヘンリー・クラーヴァルと友情を育んだり、(少なくとも)表面上は家族と親しく付き合っていた。それに対してNTLのヴィクターには最愛の友クラーヴァルも、北極の地で理解者になろうとしてくれたウォルトンも居ない。そもそも彼自身、(これはNTL版ヴィクター固有の特徴なんだけど、)嫌悪しか理解できず、他者からの愛情を拒絶している。愛情を理解できないからクラーヴァルが居ないのか、クラーヴァルが居なかったから愛情を理解できなかったのかは分からないけど、父やエリザベスと表面上すらうまく付き合えない孤独なヴィクターの姿が、とても哀れに思えました。

そしてその分、クリーチャーとの関係性が強烈に映りますね……!!

 

NTLはキャスティングの時点でそれが伺えるんだけど、ヴィクターとクリーチャーの関係性に焦点が当てられている。クリーチャーはヴィクターの分身なんですよね。「私達は一つだ」と言う最後のシーンは言わずもがなエモエモの極みなんだけど、「人間と怪物」だった2人の立場がだんだん反転していくのが好きだと思いました。

クリーチャーの伴侶を創るシーン。この時、クリーチャーは愛が何かを理解し、自分の理解者である伴侶を切実に求めている。一方ヴィクターはというと、愛が何か知らず、クリーチャーの伴侶を残酷に破壊する。ここはクリーチャーのがよっぽど人間らしく、ヴィクターのが「怪物」に見えるシーンですね。愛情を理解できず圧倒的孤独であるヴィクターは、自分の半身たるクリーチャーが他者からの愛情を享受するのを許さない。クリーチャーの伴侶を殺し、彼を自分と同じ孤独の境地に追い込んでいる。

(余談。ヴィクターには、クリーチャーが自分の半身であるとか、自分と同じ孤独に追い込んでやろうとかいう自覚は無いと思っています。というのも、私は原作のヴィクター・フランケンシュタインという男は自分が何を思っているのか・何を恐れているのかを自覚できない男であり、常に無意識下の欲望・恐怖に突き動かされている男だと解釈しているので、NTLのヴィクターの事も基本そんな感じのスタンスで考えています)

ヴィクターとエリザベスの婚礼の夜。エリザベスはクリーチャーに理解を示してくれたのに、ヴィクターに噓をつかれ伴侶を殺されたクリーチャーは、同じように噓をついてヴィクターの妻を殺さなければならない。狂ってやがるぜ。愛情を理解できないヴィクターは当然、妻と果たさねばならない性的責務にも気が乗らないと思うのですが、クリーチャーの伴侶を殺したおかげでクリーチャーが自分の妻を殺した。これで結婚・家庭とかいう理解できない愛情の鎖から解放された。圧倒的孤独の完成だよ。やったね。お互いを孤独に引きずり落とし合う2人がヤバイ。

 

北極のシーンで、死んだかと思われたヴィクターに「置いていかないでくれ」と涙を流すクリーチャー。物語の冒頭ではヴィクターがクリーチャーに命を与えるんだけど、終盤のシーンではクリーチャーがヴィクターを蘇らせる。この立場の反転が、良いね。このシーンでクリーチャーがヴィクターに肉とワインを与えているのも良いわ。クリーチャーの涙にヴィクターは息を吹き返し、それを見たクリーチャーは「僕を愛してくれたのですね」と感激する。けれど2人は手を取り合う事はなく、永遠に復讐の追いかけっこを続ける事にする。愛ではなく嫌悪で結ばれる2人……2人の憎しみの絆は、愛よりも強く2人を結びつけているんですよね。この強烈な、救いようのない、どうしようもなく凄まじい絆で結ばれた創造主と被造物の関係性が素晴らしい。

とても良い舞台化だなあと思いました。

うん……とても良い……すごく良い舞台化を作ってもらえて、幸せだなあ……

 

そう思って、非常に心が満たされました。こんなに素敵な「フランケンシュタイン」翻案を享受できる私は幸せ者です。

 

そんな最高最高の『フランケンシュタイン』翻案である「ナショナル・シアター・ライブ:フランケンシュタイン」は、シネ・リーブル池袋で上映中!→ナショナル・シアター・ライヴ アンコール夏祭り2019 | シネ・リーブル池袋