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とりとめのない日記

このうえない幸せ【みきくらのかい『マクベス』感想】

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吉祥寺シアター×みきくらのかい 新リーディング『マクベス(昼公演)を観てきました。

最高! 最高の作品でしたね!

ということで感想を書きつづります。

※この記事には本公演のネタバレがたくさん含まれます!

 

 

この記事を書いた人:

シェイクスピア劇が好きなオタク。中でも特に好きな『マクベス』の戯曲を、三木眞一郎さんと小野大輔さんが朗読されると聴いて迷わず駆けつけた。

声優さんにはあまり詳しくないが、三木眞一郎さんには日頃アニメなどの色々な作品でお世話になっている。小野大輔さんには、以前最高の『フランケンシュタイン』朗読(怪物は「過去」じゃない【Voice Box「フランケンシュタイン」感想】 - ぴかぴかマグパイ)を魅せてもらった恩義がある。

 

感想

 

何から書こうかな……

意外に思ったのが、マクベス*1小野大輔さんが演じていることでした。

本公演は三木眞一郎さんが主催される劇と聞いていたので、タイトルロールのマクベス三木眞一郎さんが演じるものかと思っていました。

しかし劇が進むにつれ、この配役…………大正解過ぎ…………!!と心から納得しました。

 

小野大輔さんの、芯のあって力強い男前な声、マクベスにとてもよく似合いました。

最初は確かに英雄だったはずの男、マクベス。その彼が、野心に蝕まれて魔王の如き悪王となり、破滅していく姿。小野大輔さんの演技本当に……良かった……!!

 

劇冒頭、戦を終えたマクベスとバンクォーが、三人の魔女に予言を受ける場面。この時のマクベスが胸に秘める「野心」の演出もとても良かったです。

万歳マクベス、コーダーのご領主。万歳マクベス、いずれは王になる御方。*2

自身が王になるという予言を聞いたマクベス小野大輔)に、強いスポットライトが当たるんですよね。ああ……野心に……野心に目覚めている……!とハラハラしながら観ました。良かった……

 

 

そして、三木眞一郎さんが演じられるマクベス夫人。

 

三木眞一郎さんのマクベス夫人!! 三木眞一郎さんのマクベス夫人ですよみなさま!!!!

 

個人的に大興奮大感激の配役でした。

これは筆者の私情なんですが、私はマクベス夫人(役名)が大好きなんですよね……!

「私はお乳を飲ませて子どもを育てた。だからこの乳を吸う赤ん坊がどれだけ可愛いかよく知っています。それでも、私の顔に微笑みかけてくるその柔らかい唇から乳首をもぎ取り、子供の脳みそを叩き出してみせます。さっきのあなたのように一度やると誓ったなら」

この最強の台詞はほんの一端に過ぎない、あまりに強く美しい悪女・マクベス夫人。

シェイクスピア先生が得意とする(私観)、口が悪くて大胆で、野心に溢れた魅力的な悪役。

 

本公演の情報を初めて目にした時、マクベス夫人は三木眞一郎さんと小野大輔さん、どちらが演じられるんだろう?というのは、とても興味を惹かれるところでした。

力強いイメージのある小野大輔さんがマクベス夫人をやるとしたら、それはそれで絶対に強くて最高のマクベス夫人だろうな……!と思っていましたし、三木眞一郎さんにはもう絶対にマクベス夫人が似合うので、それもそれで見たい……!と思っていました。

 

なので、幕が開けて小野大輔さんがマクベスを演じた時、必然的にマクベス夫人は三木眞一郎さんをやる、と察してもうね、ワクワクが止まりませんでしたわ……!!

 

三木眞一郎さんのマクベス夫人、本当に良かった……!

まず三木眞一郎さんの声音が本当に好きなんですよね。

知的で、不敵で、柔らかくて、武力ではなく知力を想起させる、最高に強くてかっこよくて魅力的なお声。

三木眞一郎さんとマクベス夫人、掛け合わせたらそんなもの最高になるに決まってるんですよ……!!

マクベスを唆す、知的で色気のあるマクベス夫人の姿、本当に良かった……生きているうちに三木眞一郎さん演じるマクベス夫人をこの目で見ることができて、本当に良かった……

 

 

また、本公演は演出も面白かったです!

「朗読劇」ではあるんだけど、役者や舞台装置がかなり動く。

 

その中でも特に良かったのが、マクベスマクベス夫人が座っている空間で……!

透明な素材でできた四角い机と椅子があり、3枚の透明な板でその左右と後ろを囲われた、狭い個室のような舞台装置。それが舞台上に二つ置かれ、三木眞一郎さんと小野大輔さんがそれぞれその中に座ってマクベスマクベス夫人を演じていました。

この形状、どういう意味があるんだろう……と思ったんですが、劇を観ていくにつれ、この透明な板で囲われた四角い空間が、だんだん「檻」のように見えてきたんですよね。

魔女の予言に囚われてしまった二人を暗示しているような、この空間がとても良かったです。

 

対して、マクダフやマルカムを演じる際は、仕切りのない、ただ丸いテーブルと椅子に座っているんですよね。

マクダフたち、言ってみればこの劇のヒーローサイドである彼らが、調和のイメージのある「丸」で構成された開放的な空間にいること。

狭苦しい四角い空間に囚われているマクベス夫妻の病的さが強調されるようだな……と感じてよかったです。*3

 

そしてこのマクベス夫妻のいる四角い檻、劇が進むにつれてふと、「棺桶」にも見えてゾッとしました。

ダンカン王を殺害した後、罪の意識に耐えられず発狂し、自死してしまうマクベス夫人。そんな彼女が座する四角い空間の中には、いつのまにか花が置かれているんですよね。棺桶に添えられるように。

マクベス夫妻が辿る死の運命を想起させるような、シンプルだけど味わい深い舞台装置……とても……とても良かったです。

 

また、演出としてもう一つ印象的だったのが、上でも少し言及した「花」。

マクベス夫人の手によって、ダンカン王が座する玉座に置かれたり、王暗殺の罪を着せられる哀れな衛兵に手渡されたりします。

この花、美しい悪女たるマクベス夫人の「毒」というか悪意のようなものを象徴しているみたいで、良い小道具だな……と思いました。

しかしマクベス夫人が発狂すると、彼女が座する四角い空間の中に、大きな花が飾られるようになり。自身の犯した罪に苛まれたマクベス夫人の哀れな運命と重なって見え、とても好きでした。

 

いや本当に本公演、演者さん2人の圧巻の演技は言わずもがな、演出もね……本当に好みでね……

 

クライマックス、マクベスとマルカムたちの最終決戦での演出として、天井から、細長い糸のようなものが無数に垂れ下がってくるんですよ。

柳、植物のように見えて、マクベスにとって死の前兆である「バーナムの森」を連想して良いな〜と思ったし。それが赤いスポットライトに照らされると、戦場に降る血の雨にも見えてくるし。それと、少し考えたら柳(willow)って死を感じるモチーフだなと思い出し、更に良くて……とても印象的な場面でした。

 

 

さて、演者さんお二方の演技も、本当に言葉に言い尽くせないくらい良かったです……!

マクベス役が小野大輔さんなので、マクベスとの最終対決を担うマクダフは、もちろん三木眞一郎さんが演じられたのだけど。

悪役感の強いマクベス夫人とは対照的に、ヒーロー性の強いマクダフを演じる三木眞一郎さんも、とても良かったですね……!

なんだろうねこの、三木眞一郎さんの声色の柔らかさというか、優しさというか。忠義に溢れ、哀しみを乗り越えて悪王マクベスに立ち向かうマクダフに、非常にマッチしてましたね……!

マクベスとの最終対決で、「おれは月足らずで母の胎内から引きずり出された」と、マクベスの「まじない」を破る場面は胸が熱くなりました。良い……!! 三木眞一郎マクダフ、とても良かった……!!

 

そして小野大輔さんは本当に男前で気持ちのいいお声だなと。劇冒頭の、まだ王でなかった頃のマクベスは、正統派に男前な感じなんですよね。それが、最終対決では獣のごとく、魔王のごとくドスの効いた迫力のある演技で……断末魔の咆哮も圧巻でした。

 

 

……というわけで朗読『マクベス』、本当に最高の公演でした……!! この作品を観劇できたことに、このうえない幸せを感じています。

 

最高で圧倒的な演技を見せてくれた三木眞一郎さんと小野大輔さん、脚色・演出の倉本朋幸さん、本公演に携わった全ての方、本当にありがとうございました。

 

円盤化してくれ〜!

 

 

 

 

*1:戯曲のタイトルと主人公の名前が一緒なのややこしいですね! この記事では『マクベス』と二重鉤括弧で囲っている時は戯曲を、そうでなくただマクベスと書いている時は登場人物(役名)を指していることとします。

*2:本公演で使用されたのは福田恆存訳でしたが、筆者は普段松岡和子訳の『マクベス』に慣れ親しんでいるため、この記事では松岡訳につられていると思います。

*3:これが演出の意図なのかは分からないけど、私はこう解釈して楽しめたので良しとします!