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とりとめのない日記

フランケンシュタインの翻案たち

先日、友人と2015年の映画「フランケンシュタイン  アダム・ザ・モンスター」の鑑賞会をした。この映画は個人的には「フランケンシュタイン」(1818年のメアリー・シェリーによる小説)の翻案としてかなり秀逸な作品なので、原作小説を読んだことのある友人と共有できて嬉しかった!

 

私が「フランケンシュタイン」の原作を初めて読んだのは約2年前の事になるのだけど、今日に至るまでいろいろな翻案を見てきたなあ……と改めて思ったので、自分が今までに履修した翻案を下に書き出してみた。

 

映画

・1910年、J・サール・ドーリー監督、10分強の無声映画

・1931年、ジェイムズ・ホエール監督、世間一般でいうところの怪物「フランケンシュタイン」のイメージはこれ。

・1994年、ケネス・ブラナー監督、デ・ニーロが出演してるのはこれ。

・2004年、ケビン・コナー監督(カット版)

・2015年、バーナード・ローズ監督、邦題は「フランケンシュタイン アダム・ザ・モンスター」

・2015年、ポール・マクギガン監督、原題は「Victor Frankenstein」、ジェームズ・マカヴォイダニエル・ラドクリフ主演はこれ。

 

舞台

・2011年、ダニー・ボイル監督、ナショナル・シアター・ライブ、カンバーバッチとジョニー・リー・ミラーがW主演。

・2016年、英国ロイヤルバレエ団。バレエ。

・2019年、富山のはるか

 

その他

・1994年、伊藤潤二による漫画

・2011年、NHK青春アドベンチャー」によるラジオドラマ

 

たぶんこれで全部かな……? マクギガン監督の映画はかなり原作とは違うけど。翻案ではなくオマージュものだと、ドラマ・相棒「フランケンシュタインの告白」も最高だった……という話は置いといて。

 

私が「フランケンシュタイン」の翻案を評価するとき、三つの軸がある。

まず「原作に忠実か」、そして「原作を読んだことのない人に入門編としてお勧めできるか」、あとは細かい事は置いといて「好きか」どうか。

たとえばケネス・ブラナーの映画は「原作に忠実か」の観点で言うと「お前……お前ちゃんと原作読んだのか!!!?!?!?」って問い詰めたくなる程度には信頼できない(※個人の感想です)し初心者にもお勧めしないけど、ヴィクター・フランケンシュタイン(ケネス・ブラナー)のビジュアルがバチボコに良かったので「好き」ではある。みたいな。

 

個人的に選ぶ「フランケンシュタイン」翻案トップ3は、

・2015年の映画「フランケンシュタイン アダム・ザ・モンスター」

・2011年ナショナルシアターライブの舞台

NHK青春アドベンチャー」のラジオドラマ

の三つ。

 

さっき言った三つの観点から、トップ3のそれぞれを少し語る。

 

「アダム・ザ・モンスター」

「原作に忠実か」→めちゃくちゃにYES。この映画は物語の舞台を18世紀のヨーロッパから現代のアメリカに移していて、そのほか設定の変更は色々とあるんだけど、原作のテーマを受け継いで強烈に描いている。生まれた時は無垢だったクリーチャーが、怪物として扱われ続けたことで最終的に怪物となってしまう様が……すごい。

「原作未読の人にお勧めできるか」→これはNO。というのも、原作ファンとしてはこの映画は大いに楽しむことができたんだけど、なにぶん物語はかなりヘビーな仕上がりになっているので、未読の人にはキツいと思う……実際、原作履修済みの人は「原作に忠実」と高い評価を聞いたりするんだけど、明らかに原作未読だろうな〜って人は引いてたりする。ので、原作読んだ人には是非お勧めしたい。した。(記事冒頭参照)

「好きか」→大好き!!!!!!

 

ナショナル・シアター・ライブ

「原作に忠実か」→YES。これも設定の改変はかなりある。主人公ヴィクターの親友ヘンリー・クラーヴァルが登場しなかったり、ほとんど全編がクリーチャー視点で描かれていたり、ヴィクターの性格が多少変更……というか、思い切った解釈がされていたり。しかしそれらはクリーチャーの無垢さと、そこから「怪物」になってしまった悲劇性、ヴィクターの拗らせ様、クリーチャーとヴィクターの関係性……などなど、原作のテーマを鮮烈に、強烈に描き出すための演出なので、ただただ驚嘆。すごい。

「原作未読の人にお勧めできるか」→YES。前述の通り原作と違う点がぽつぽつあるので注意は必要なんだけど、大体の流れは原作と同じなのでいわゆる「忙しい人向け」として適していると思う。安心してお勧めできる。鑑賞できる機会が限られているのが難点だけどな!! 2019年8月に池袋の映画館で上映するのでこの機会を逃さず行きましょう。私は行く。

「好きか」→大好きに決まってるんですよね!!!!!!!!!! 私はヴィクターとクリーチャーをキャラクター・ダブル(分身/ドッペルゲンガーみたいなもの)として見ているので、とあるシーンがめちゃくちゃ解釈が合って良かった。好き。Amazonでこの劇の台本(原語版)を買う程度には好き。円盤が出ないのが悲しい……

 

青春アドベンチャー」ラジオドラマ

「原作に忠実か」→YES YES YES YES! ドラマ仕立ての朗読劇、という感じの作品。小説「フランケンシュタイン」の邦訳本はもちろん色々あるんだけど、どの邦訳を使用しているかがクレジットされる程度には、原作通りに物語が運ばれる。時代背景や設定の大きな変更は無く、ハリウッド映画みたいに無理やりヘテロ要素が強調されねじ込まれたりもしてないので、安心して聞けます。

「原作未読の人にお勧めできるか」→YES!!! 上述のように朗読劇に近いので、敷居の低いものとしてお勧めできる。した。(他の友人に)

「好きか」→あらゆる「フランケンシュタイン」翻案の中で一番好き!!!!!!!!!!!!!!(私情)!!!!!!!!! というのもこのラジオドラマというのは、私が翻案トップ3に挙げた作品の中で唯一、主人公の親友ヘンリー・クラーヴァルが登場する作品なんですよね。私は、原作「フランケンシュタイン」においてクラーヴァルが一番好き。いわゆる「推し」。しかし「フランケンシュタイン」の翻案、特にハリウッド映画なんかを観ていると、ヘテロカップルを作んなきゃなんない不文律でもあるのか知らないけど、ヴィクターとエリザベスのヘテロラブが強調されて描かれる事が多い。そのため、エリザベスの存在に重きが置かれてクラーヴァルの存在は軽視されがち。そういう背景もあって、原作通りクラーヴァルの存在感が大きく描かれているこのラジオドラマは非常に好感度が高い。

それと、私はヴィクターがなんの問題もなくヘテロラブに興じている翻案があまり好きではない、という理由もある。ヴィクターは性的行為/女性性を拒絶し続けたあまり、女性の存在無しに一人で生命を生み出したり、制作途中の女版クリーチャーを壊したり、エリザベスを死に追いやったりしてしまった拗らせ青年だというのが私の原作解釈なので……なので、ラブが変に強調されていないこのラジオドラマは、とても解釈が合う。好き!!

 

 

以上。トップ3以外の翻案についてもそれぞれ語ろうと思えば語れるんだけど、長くなりそうなのでそこまでの気力が無く……今日はここでおしまい。

 

フランケンシュタイン」と聞けばとりあえず軽率に飛びついているので、今後も素晴らしい翻案に出会えるよう……祈る!